染工所の亀の子束子〜伝統の技で日本の心意気を染め抜く匠

亀の子束子をご愛用あるいは支えて頂いている皆さまのもとを訪れて、さまざまなお話を伺う「亀の子訪問記」。
今回は亀の子束子の「亀の子オリジナル前掛け」も手がけていただいている、豊橋の山佐染工所さんにお伺いしました。


山佐染工所さんは、豊橋駅から用水路沿いにしばらく進んだ静かな街並みの中にあります。創業以来、受け継がれる手仕事の技を伝承しつづける染物店。その技を頼りに北海道から九州まで、全国から注文が集まります。
ご案内頂いたのは取締役の柘植弘美さん。代表取締役 柘植学社長のお母様にあたります。
工場に入ると早速、ギュッギュッとたわしで布をこする音が聞こえてきました。

「これは糊を落しているところです。」と柘植さん。生地を染める前に、図柄になる部分に乗せた糊を洗い流す工程だそうです。
その横を見ると、使いかけのたわしが置かれてしました。まず驚かされたのはその使いっぷり。

奥にある丸みを帯びた形が比較的新しいもの。手前の使い込んだたわしは繊維がすり減って毛足が短くなって形が変わっているものまであります。どのくらい使うとこうなるのかとお尋ねしてみましたが、ひとつのものを続けてずっと使うわけではなく、いくつかずつ順におろしながら使い分けていくので、はっきりとはわからないそうですが、かなり長い間のようです。
「古くなって柔らかくなってきたものも、それに適した使い道があるんです。」使い終わった型紙を洗う場面では、彫りおこしたデザインや張りめぐらされている糸を引っ掛けたり傷めたりしないように、あえて使いすすんだ柔らかいものが選ばれています。この作業にはこのくらいの塩梅のものがいいかな、と使い分けるのも職人の経験と知恵。
下の写真がその作業ですが、手元をよく見ると、握り癖がついたり先端が薄くなるまで使い込まれたたわしが使われていました。

前後してしまいましたが、山佐染工所さんでの作業の流れをご紹介します。
こちらが型紙。亀の子束子直営店で販売中の亀の子オリジナル前掛けのものも見せていただきました。注文を受けてデザインが決まると、ひとつひとつ手彫りで仕上げられます。「機械ですることもできるのですが、もうすこしここを太くしたい、といったちょっとした加減ができません。その加減が手彫りならではの味につながってくるんです。」

型紙を網にセットして糊付けします。北海道の酒蔵からのオーダーが次々と手際よく進んでいきます。「簡単にやっているように見えるかもしれませんが、技術を要するものです。今日入ったからといって今日できるといったものではありません。工場が乾燥してしまうと糊の加減に影響するので、空調も使いません。暑い時は暑く、寒い時は寒い現場なんですよ。」

追いかけるように、もう一人の職人さんが指で糊を足しています。「穴が開いてしまうと、そこに色が入ってしまうので目で見ながら補います。」糊づきが薄いところも色が残るため整えるそうです。一枚一枚、緻密な作業です。確認が済んだら砂をかけて次の工程へ。糊のついた型紙は、この後枠から外して、先ほどのように水洗いされます。糊が残るとその後の作業に支障があるので、たわしできれいに落とすそうです。

生地には針金を渡して折りたたみ、約80℃の染料の中に浸されます。「3分間待つのだぞ、です(笑)」そして熱いまま引き上げられた後は、糊が落ちやすくなるように水につけた後に、冒頭の「洗い」の工程につながります。「この方法は硫化染めと言います。全国的にやるところは少なくなってきていますね。」使用するにつれて味わいが増すのが硫化染めの特長。亀の子オリジナル前掛けも使い込むにつれ風合いが馴染んでいくところが人気です。

洗いの工程では、消防法被の作業中でした。「厚手のものは機械を使うこともありますが、薄手の生地のものはすべてこうして手洗いしているんです」と柘植さん。薄めの生地ということで作業もやさしく行っているのかと思ったら、「いや、力を入れてこすっていますよ。結構大変な作業なんです。」と職人さん。薄手といっても丈夫な生地の上をいったい何回、何往復こうしてたわしがこすられているのかと考えると、たわしの摩耗度合にも納得です。

この日の消防法被は宮城県からの注文だったそうです。柘植さんにうかがうと、他にも岩手や熊本など、地元業者の方の被災によって注文を請けるケースもあるそうです。
「陸前高田や名取など、テレビに映ったこともあります。うちでやった仕事が現地で頑張っていると思うと嬉しいものです。」

まさに日本の心意気を染め続けている山佐染工所さん。大正時代に創業されて現在は5代目になるそうです。「亀の子束子さんとはすごく長いですよ。私がここに来てから55年になりますが、来た時にはもうすでにずっと亀の子束子さんを使っていました。」他のものを使うなんて考えたこともないとのことです。「やっぱり素材がいいです。ものがしっかりしています。ナイロンや他のブラシ類はすぐに曲がって使えなくなってしまいますが、亀の子束子さんだからこんな風になるまで長く使えているんだと思います。一般のお客様だとここまで使う方はいませんよね、大事に使ってますよ。」と笑顔の柘植さん。
たわしに寿命があるとしたら、まさに全うさせていただいているのではないかと思います。柘植さんはじめ山佐染工所の皆さん、ごお忙しい中ご協力ありがとうございました!


有限会社山佐染工所

http://www.yamasasenkoujo.co.jp/
実際に作業を見せていただいた帆前掛や消防法被の他に、祭半纏や旗・のぼり、横断幕など様々な製品を、一枚からオーダーを請けるという山佐染工所さん。「たくさん作ろうとしたら機械に頼らざるを得ません。でもうちは自分たちの得意なものをつくっているんです」と、ひとつひとつ手作業での仕事がこだわりです。現在は縫製なども含めて現在は20人ほどのスタッフが働いていらっしゃるそうです。「汚れるし暑いし寒いし」と語られる厳しい現場ですが、女性の職人さんも活躍されており、昨年は地元の情報誌にも紹介されたそうです。ますますのご活躍をお祈りします。


登場した亀の子束子製品


亀の子束子4号
パームヤシを使用した元祖「亀の子束子」の中でもいちばん大きなサイズ。業務用にご愛用頂くことも多い大きさです。